言葉はいらない

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それからすぐに 斎藤に連れられて 3人は外に出ていった。 幕末の京を歩く。 それだけで十分怖い。 総司が窓から外を見ると 3人ともガチガチに緊張して ギクシャクと歩いている。 冬馬などは右手と右足が 同時に動いていた。 「ベタですねぇ。」 総司はくすっと笑う。 でも、3人がいてくれて良かった 1人だけだと冷静な判断が できなかったかもしれない。 「ふぅ。」 総司は窓から離れて 壁にもたれる。 すーっと息を吸い込んでみた。 懐かしい匂いがする。 この空気を吸って、 新撰組の一員として 誇りを持って生きていた時が 確かにあった。 『あの頃が一番良かったなぁ。 見え始めた希望に 毎日がキラキラしてたから』 春と壬生の屯所に訪れたときに 自分が言った言葉だ。 今屯所に行けば、 あの頃の皆に会える。 労咳に侵されていない体は まだまだ軽く、風のように 刀を振るえていた。 隣には春がいた。 近藤に山南に、 いつもの3人組。 絶えない笑い声。 少しずつ夢が叶っていく 確かな充実感。 それからの新撰組は お互いの誠を守る為に 徐々にバラバラになっていった。 山南の穏やかな笑顔も 近藤と土方の和やかな時間も 3人組の馬鹿笑いも 少しずつ少しずつ、 無くなっていって……。 「あ……。」 総司の頬に熱い液体が伝った。 「まいったな。」 ここには、良い思い出が多すぎる
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