言葉はいらない

20/31

4574人が本棚に入れています
本棚に追加
/500ページ
髪の短い一人の侍が 大通りを駆け抜ける。 そんな総司の必死の形相に 道行く人々が振り返った。 総司の目から見ると 景色は凄い速さで 後ろに流れていく。 句集を盗み見したせいで 土方に追いかけられて 春と逃げ込んだ団子屋。 いつも巡察で通った橋。 春が潜入捜査をした呉服屋。 向かい側のお茶屋。 夜中に涼んだ鴨川。 春と来た甘味処。 春が立ち寄った貸本屋。 …………春。 ここで武士として 生きたことは 嫌なことばかりでしたか? 消し去りたいような 辛いものでしたか? (そうじゃないと信じてます。) 総司は光る鴨川の 水面を見ながら息を整える。 (だから、私を 選んでくれたんでしょう?) 総司はまた走り出した。 目的地は壬生の新選組屯所。 いや、目的地は 水無月春。 総司の大好きな ただ一人の女の子だ。
/500ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4574人が本棚に入れています
本棚に追加