言葉はいらない

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「沖田さん!?」 斎藤達が縁側の曲がり角から 飛び出してきた。 「総司!?何してんだよ!!」 冬馬も驚きの声をあげる。 「来ちゃったんですか!!?」 都が呆れた顔をする。 優は黙って頭を抱えた。 「え?何…………?」 春はキョトキョトと 視線を泳がせる。 「春っ……。」 総司は周囲に構わず 春を抱きすくめた。 「えっ!おおおおきた先生!?」 真っ赤になる春。 「沖田先生じゃないです! 総司って呼んで下さい! 逃げないでください。 目を背けないでください。」 「一体な……に、を?」 春の表情が曇っていく。 桜色に染まっていた頬が 蒼白に変わった。 「い…………や。」 春の体が強ばるのが分かる。 「春??」 異変に気づいた総司は 体を離して、春の顔を よく見ようとした。 「嫌っ!!」 ドンッ!! 春が総司の胸を強く押し返す。 一瞬何が起こったか 総司には分からなかった。 ただ、自分の体が ぐらりと揺れるのを感じただけ。 「怖い……恐い、コワイ!」 春は額を押さえてうずくまる。 拒絶されたのだ。 総司は目の前の光景が信じられず 白黒写真を見るように ぼんやりとたたずんだ。 「沖田さん。 時期が早すぎた。一旦退こう。」 斎藤が総司の腕を引く。 総司は動かない。 「沖田さん!!!」 もう一度強く呼ばれて 総司の目に光が戻る。 「あ。私は……。」 「沖田先輩、行きましょう。 今の春には言葉や理屈は 通じないんです。」 優が険しい顔をして 縮こまっている春を見下ろした。 半ば4人に引きずられて 総司は屯所を後にする。 小さくなっていく 春の頼りない背中が 総司の目に焼き付いて いつまでも離れなかった。
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