言葉はいらない

25/31

4574人が本棚に入れています
本棚に追加
/500ページ
「朝倉、さん……。」 総司が動きを見せた。 きちんと座り直して 都の瞳を見据える。 油小路の変とは何か。 それを語るには、 少し前置きが必要だ。 新撰組の内部分裂から事は始まる 新撰組参謀を務めた 伊東甲子太郎を筆頭に 新撰組から分離した者達は 御陵衛士という組織となる。 簡単に言えば天皇を守る組織だ。 北辰一刀流で伊東と 同門だった藤堂は 新撰組から離れて御陵衛士に 入ることを決意した。 そして近藤局長の暗殺を 企てていた伊東派を 逆に新撰組が襲うことになる。 これが油小路の変だ。 伊東の亡骸の元に駆けつけた 御陵衛士達と新撰組は刃を交えた そこで藤堂も命を落としたという 総司は話を聞いただけ。 その頃にはもう、 労咳に侵された体は 使い物にならなかった。 (私が動ける体を持っていたら 私も藤堂さんを斬りに 走ったんだろうな……。) 藤堂の笑顔を思いだしながら 薄い蒲団の上で手を合わせて、 哀しくなったのを覚えている。 都はゆっくり息を吐いた。 「それぞれ信じるものの為に…… 迷っても辛くても 自分を貫き通してる。 その拠り所に 刀が必要だったんですね。」 優も冬馬も、 都の話に聞き入っていた。 「一瞬でもこの時代で 生きたことがある春なら そんなこと分かってる筈なのに。 一回力を抑えられなかった位で 逃げるなんておかしいよ。」 話終えた都は 総司から目をそらす。 「出すぎたこと言って すみません……。」 都は小さな声で総司に謝った。
/500ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4574人が本棚に入れています
本棚に追加