言葉はいらない

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それから二、三日は あっという間に過ぎた。 斎藤は手が空いた時間に 春の様子を伝えに来てくれる。 その日も斎藤は 爽やかな風が 吹き抜ける昼下がりに 総司達の元にやってきた。 「水無月はついさっき 隊服をもらって巡察に出たぞ。 隊士をやめる気はないようだ。」 部屋に入ってくるなり斎藤が言う 「そうですか!」 都が安堵したように 顔をほころばせる。 「なら、望みは高いよな。 春ちゃんだって本気で 記憶をなくしたいなんて 思ってないんだよ。」 冬馬は同意を求めて 総司に笑顔を向けた。 「たい、ふく……??」 総司は冬馬の語りかけに 返事をせずに、顔色を変えた。 「沖田さん?」 斎藤が敏感に反応して 総司の名前を呼ぶ。 「……っ!春が危ないっ!!」 総司は突然顔を上げて 襖を突き破る勢いで 部屋の外に出ていった。 「沖田先輩!?」 優が慌てて後を追いかける。 残りの3人も急いで優に続いた。 やはり斎藤は足も速い。 店を出て、通りに出ると あっという間に優を抜き 総司の背後に問いかけた。 「何故水無月が危ない? 俺達にも分かるように 説明してくれ。」 総司は疾風のように走り続ける。 向かい風の合間に 途切れ途切れに返事をした。 「今日、なんですよ!」 「何がだ!?」 斎藤が珍しく大きな声を出す。 「春が初めて人を、斬るのがっ」 総司は更に速度を上げた。
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