言葉はいらない

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小さな橋が見えてきた。 総司は一直線に そこを目指して駆けて行く。 ちょうど浅葱色の塊が 橋にさしかかるところだった。 橋の反対側からは、 商人風の男数名が 歩いてきている。 普段重たい刀を 腰に差しているせいだろう 商人風の男は重心が傾いた 妙な歩き方をしていた。 「まずいっ!」 総司は悲鳴に近い声をあげる。 春が人を斬ることを拒むなら 今日ここで斬られてしまう。 斬らなければ斬られる。 それは揺らぐことのない 真実の一つでもあるからだ。 もし……私を思い出さなくとも、 春を死なせるわけにはいかない! 早く、早く 速く速くはやくっ!! まだ豆粒のような 浅葱色の人影の中に 小さな白い顔が見える気がする。 春はあそこにいる。 間に合え!間に合え!! 走り続けて固くなった筋肉を 気合いだけで無理矢理動かして 総司は走り続けた。 斎藤も何も言わずに 総司の後ろにピタリとついて 一緒に走っている。 呼吸一つ乱れていなかった。 その更に後ろに、 冬馬、優、都の順番で 3人組が続く。 総司と斎藤の桁違いの体力に 唖然としながらも 3人とも決して歩みを 止めたりしなかった。
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