言葉はいらない

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橋がいよいよ近づいて来たとき、 新撰組と男達がすれ違った。 「奇襲だぁぁぁーーー!!」 叫び声があがり、隊列が乱れる。 総司の目は必死で 愛しい人を探した。 …………いた。 震えながら刀を抜いている。 総司は風のように 人の波をぬって 春の傍に行こうとする。 「沖田さん!! 丸腰で行く気か!?」 斎藤の忠告は 総司の耳には届かなかった。 斎藤は橋の手前で刀を抜き 都達を守ることしかできない。 「沖田先輩、頼みますっ!」 斎藤の背中の後ろから 都が力一杯叫んだ。 刀と刀がぶつかり合い 鈍い音が響く中、 総司は昔の自分のすぐ傍を 駆け抜けたことにも気づかない。 幕末の総司は春から 少し離れたところにいた。 ここからでは、 春に何かあったとき 間に合わなかっただろう。 総司の手がようやく 春に届きそうになったとき それより一瞬速く、 浪人が殺意を持って 春に刀を振り上げていた。 「春!!!!」 春は刀を構えない。 総司は春の体の前に 後先考えずに飛び出した。 死を覚悟する。 総司の頭上に刀が迫った瞬間、 後ろからドンッと突飛ばされた。 何が起こったか分からない総司。 目の前の男の太もも辺りから 鮮血が染み出ている。 足の自由がきかなくなった男は その場にうずくまった。 総司が後ろを振り返ると、 「ハァッ!ハァッ!」 息を乱して刀を強く握ったまま 立ち尽くしている春がいた。 「しゅ……ん??」 「総司、ごめ……なさ。」 聞き慣れた発音の仕方で 春が総司の名前を呼ぶ。 カランと春の手から刀が落ちた。
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