言葉はいらない

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大きな涙の粒が春の目尻を伝う。 無限に湧く泉のように 涙の滴が溢れていく。 「ご……めんなさい。 あたしっ!……あた、し!」 周りの景色が白く霞んで 春と総司はお互いの姿しか 見えなくなった。 「良いんです。良いんですよ。」 総司はゆっくりと春に歩み寄る。 春はびくっと肩を震わせた。 「あたし、総司と 一緒にいる資格なんかっ……。」 総司は後退りする春の腕を掴み 一気に引き寄せると 春の体を腕の中に納める。 「あの浪人の方は、 命を落としていませんでしたよ? とっさに足の自由だけ奪うなんて 剣の腕が上がりましたね。」 「…………でもっ!! あたしは逃げて、 総司達との大切な思い出を!」 顔を真っ赤にして 泣きじゃくる春の唇を 総司は素早く奪った。 「ふっぅぅ~!!」 春は涙を流しながら 腕の中でもがこうとするが 角度を変えて何度も 唇を吸われるうちに 抵抗する力は弱くなっていく。 言葉なんていらなかった。 春は総司を守るために 刀を振るった。 それだけで十分だ。 ……思い出してくれた。 武士がなんのために、 刀を持っていたのかを。 「帰りましょう。 私達の生きるべき時代に。」 総司は春の唇を解放すると 口元に安堵の笑みを 浮かべてささやいた。 春はやっと総司の首に手を回す。 「っごめんなさい! ごめんなさい!」 「こんなときは、 ありがとうって言うんですよ。」 春が目を見開いたとき 世界が白く光った。
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