春色平成児誉美

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「お父さんからも 言ってやって下さいよっ! まったくもう!! この子は心配ばっかりかけて!」 春の母は鼻息を荒くするが 父はまったく気にしない様子で 総司に微笑みかけた。 「戻ったか。」 もう一度呟いて 今度は春に視線を移す。 「うん!!」 父が言いたいことに気づいた春は 笑顔で頷いた。 「戻った??」 春の母も怒りを引っ込め、 春と総司を交互に見る。 「もしかして……」 「えぇ、思い出してくれました」 総司が強く返事をする。 春の母は息をのんで、 みるみる目に涙を溜める。 どうやら水無月家の女性は 涙腺が弱いらしい。 「良かったなぁ。」 春の父は口元を和らげた。 彼一流の笑顔だ。 「では、私はこれで帰ります。 遅くまですみませんでした。」 「春が勝手に行ったんだから 総司君が謝らなくても良いのよぅ 送ってくれてありがとうね!」 母は泣き笑いの顔で 総司にお礼を言う。 「おやすみ、総司。 また明日ね。本当にありがとう」 春が総司に手を振る。 3人が家に入っていくのを見ながら、総司は春の父の大きな背中に目を奪われた。 (斎藤さん、なんですかねぇ? …………考えすぎ、か?) 総司が身を翻そうとした瞬間。 「安心してくれ。 血が繋がってるわけじゃない。 これからも娘を頼むぞ。」 小さな声が聞こえた。 「へ??」 総司は慌てて振り返ったが、 扉が閉まった後だった。 (もしかして、お父さんは 全部分かってたのかもしれない) 「……そっくりじゃないですか」 総司はクスッと笑って 帰路についた。 この一週間、春の家に 通ったときの帰り道とは違う。 『総司、また明日ね。』 …………また明日。 とても良い言葉だと思った。
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