春色平成児誉美

8/38

4574人が本棚に入れています
本棚に追加
/500ページ
翌日。 総司にはやるべきことがあった。 ……天野をこのままには しておけない。 春の記憶が無くなったせいで すぐには行動できなかったが やはり話をつけておきたかった。 天野と同学部の者に 天野の様子を聞いてみると この一週間大学に 来ていないという。 冬馬に天野のアパートを 教えてもらって 訪ねてみることにした。 昼の授業を自主休講して 総司は天野の家に向かう。 「ここか……。」 グリーンの壁のアパートだ。 ここで春がどれほど 怖い思いをしたのか 想像するだけで断腸の思いがする インターホンを 押しても返事がない。 「天野さん?いるんですか?」 総司は呼び掛けてみた。 返事はない。 総司は目を閉じて耳をすませた。 ……………………いる。 部屋の中から人の気配がした。 「いるんですよね??」 総司は確信を持った言い方で にっこりと笑いながら言う。 ガコンッ。 重いドアチェーンが外される音。 「おきた、せん、ぱい……。」 顔面を青く腫らした天野が 小さく開けたドアの隙間から 怯えた表情で顔を覗かせた。
/500ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4574人が本棚に入れています
本棚に追加