春色平成児誉美

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「ひどい顔ですね。」 総司は思わず間の抜けた声を出す 「はは。頭にできてた痣が 血の巡りで下りて来たんですよ。 …………とにかく、どうぞ。」 天野は乾いた笑いを浮かべると あっさり総司を受け入れた。 (もっと拒絶されるかと 思ってたのに……) 念のため周囲を確認しながら 総司は玄関へと足を踏み入れる。 ここで春が……。 結果的に身体的な ダメージを負ったのは 襲おうとした側だったのだが その何倍も春が受けた 精神的苦痛の方が大きいはずだ。 「天野さん。」 部屋の奥まで入らずに 総司は天野を呼び止めた。 天野が振り返るか 振り返らないかの内に 総司は天野の胸ぐらを掴む。 天野は無抵抗だった。 「……歯、食いしばった方が 良いと思いますよ? 口の中が血まみれになります。」 総司は静かな表情で 強く拳を握り締める。 落ち着いた端正な顔立ちは 微笑んでいるようにも見て取れた 天野は言われた通り 口を固く閉じる。 それを合図に、総司は 拳を思いっきり振り上げた。
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