春色平成児誉美

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ぎゅっと目を閉じて 衝撃に備える天野を見た総司は 天野の体に触れる ギリギリで手を止める。 「……………。」 いつまで経っても 痛みを感じないので、 天野は恐る恐る目を開いた。 「抵抗しないんですね。」 総司は拳の力を抜いている。 天野は下を向いて答えた。 「俺が、悪いから……。 誰か俺を懲らしめて欲しくて、 心のどこかで沖田先輩が 来るのを待ってたんです。」 「……そこまで分かってるなら 殴ってあげるのも癪ですね。」 総司は胸ぐらを 掴んでいた手を勢いよく離す。 天野の体は床に崩れ落ちた。 「私があなたを殴ったって 春が襲われかけた 事実は変わらない。 楽になんてさせませんよ。 …………二度と春には 近づかないで下さい。」 天野は下を向いたまま ゆっくりと頷いた。 「俺…………っは、 自分で水無月さんを遠ざけた。 素直に気持ちを伝えるだけで 良かったはずなのに。 そうすれば、ここまで 水無月さんを失うことは 無かったはずなのに。」 天野の肩が小刻みに震えている。 どうやら泣いているようだった。 「次、好きになった子には そうしてあげて下さいよ。」 不器用な天野のことを 総司は少しだけ哀れに思った。 天野のことは絶対に許せないが 同じ人を好きになったのだ。 好きで、好きで、好きで。 それが報われないとは 一体どんな気持ちなんだろう。
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