春色平成児誉美

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春が自分の隣で微笑むこと。 それはいつの間にか 当たり前になっていたけれど、 両思いでなければ その笑顔は自分には向けられない 春が違う誰かの腕の中で 幸せそうにしているなんて 胃がねじきれそうに なるに違いない。 総司自身も、少なからず 天野と同じ狂気を持っている。 ……そう、恋は狂気だ。 良い方にも悪い方にも 人を動かす大きな力。 一番コントロールが難しい やっかいな感情。 「二度と、春には 近づかないと約束して下さい。 でも……いつかあなたも 幸せになれるように願ってます」 うなだれる天野に向かって 総司はもう一度念を押しつつ、 最後の一言も本心から述べた。 天野が鼻水をすする。 どうやら頷いたようだ。 「あ、りがと……ござっま」 天野は床に手をついて頭を下げる しゃくりあげて、 全身が小刻みに震えていた。 総司はわざと目をそらして 見ないようにしてやりながら、 静かに天野の部屋を出た。 暗い部屋を出ると 柔らかな春の陽射しが 総司の頬を暖める。 ……総司は今すぐに 春を抱き締めたくなった。
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