春色平成児誉美

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翌朝……。 遮光カーテンではない 総司の部屋には 相変わらず朝日が 容赦なく降り注ぐ。 優を除いて飲み倒した面々は 目を覚ました順番に ふらふらする頭を抱えて 家を出ていった。 優はというと、一番最初に寝て 一番最後に起きたからおかしい。 お酒の瓶や、コップや 何かよく分からない様々な物で 汚くなっている総司の部屋を テキパキ片付けると 爽やかな顔で帰って行った。 優らしいと言えば優らしい。 「案外真面目なんですよね~。」 優を見送って、扉を閉めた春が 背後で手を振っていた 総司に向かって笑いかける。 総司はそれには返事をせずに、 にっこりと笑ってこう言った。 「春、京都に行きませんか?」 「は?」 あまりに突拍子もない誘いに 二の句が告げない春。 「今から。」 「しかも今から!!?」 春が驚いて飛び上がると、 傘立てに足が当たって 静かな部屋に鈍い音が響いた。 「痛ったぁ……。 総司、まだ酔いが 覚めてないんじゃ?」 春は足を撫でて 総司の顔を見上げる。 「私は冗談は言うけど 嘘は嫌いだって言ったでしょう? お金と暇と、気持ちさえあれば 人間はどんな土地にだって 立つことができるんですよ。」 自信満々の声音。 朝日の逆光になっているせいで 総司の表情までは読み取れない。 いつも、いつも、いつも。 春にとって総司は 新鮮な風のような存在だった。 脈絡のなさも、 それに妙に納得 させられてしまう所も。 とらえどころのない風みたいだ。 それでいて、その風は 時に弱まり、時に強く吹いて 春の心を大きく揺さぶる。 春はぽかーんっと口を開けて 後光が射したようになっている 細身のシルエットを見つめた。
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