春色平成児誉美

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「今日の夜の為に、 しっかり寝とかなきゃと思って」 総司は跳ねた髪の先を撫でた。 「今日の夜? 何かあるんですか?」 春はキョトンと首をひねる。 (相変わらず鈍いなぁ……。) 純粋に輝く春の瞳を眺めて、 総司は愛しそうに目を細めた。 「まぁ、良いじゃないですか。 時間が勿体ないから、 早く壬生に行きましょう!」 「え?ちょっ、わわわっ!」 総司は春の手をひいて 展望台からずっと下に伸びている 長い長い階段を駆け降り始める。 京都駅の名物とも言える 吹き抜けになった天井。 打ちっぱなしの コンクリートの壁面。 春はまるで、階段を 転がり落ちているように感じた。 「総司!もっとゆっくり! 怖いですよ!!」 「足腰の鍛錬ですー。」 総司は陽気に答えて 春の手を離そうとはしなかった 階段横に設置された エスカレーターに 乗っている人達が 笑いながら春達を見ている。 中間地点の踊り場に到着したとき エスカレーターに 乗っていたらしい 男性に声をかけられた。 「仲が良いですな!」 よく通る大きな声だった。 走り続けようとしていた総司も、 さすがに歩みを止める。 春と総司に話しかけて来たのは 真っ白な頭とは裏腹に しゃんと伸びた背筋が 凛とした印象を与える老人だった 笑い皺が刻み込まれた顔は とても人が良さそうで、 実際今もにこにこと笑っている。 「えーっと……。」 総司が照れたように頭をかくと 老人はカカカっと明るく笑った。 「なに、そんなに 固くならないでくれ。 私は写真を撮るのが趣味でね。 良ければ君たちを 撮りたいんだが、どうだろう?」 春と総司は自分の顔を指差して 顔を見合わせる。 「あたし達なんかで良ければ…… 別に構わないですけど……」 春はオズオズと首を縦に動かした
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