春色平成児誉美

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パシャっ! 「え?」 春は目をしばたかせる。 突然のフラッシュで目が眩んだ。 「お兄さんにはバレてたか。 勘が良いなぁ。」 老人は楽しそうに笑う。 春が混乱しながら 横に立っている総司を見ると 総司はしっかりと ピースサインをつくっていた。 春と目が合うと、 総司は勝ち誇ったように言う。 「修行が足りないですよ。」 「な……!」 文字通り、開いた口を塞げない。 「いや、失敬。自然な笑顔を 取りたかったものだから。」 老人は口が開いたままの 春に向かってウインクする。 パチパチとまばたきする春に 老人は真っ黒な紙切れを そっと差し出した。 「良い写真が撮れてると思うよ」 「うわぁ、ポロライドで 撮って下さったんですね!」 総司が喜びの声を出し、 春の手元を覗きこむ。 春がうらめしそうに 総司を睨んでいると エスカレーターの下の方から 男の人の声が響いた。 「勇さーん。何してる? ツアーガイドさんに 置いていかれるぞー!」 春と総司は弾かれたように 写真から顔を上げて 老人を見上げた。 「おっと、すまん。 時間がないみたいだ。 君達みたいに幸せそうな 二人を撮れて良かったよ。」 “勇”と呼ばれたらしい老人は にこやかな笑顔をつくると 軽く手を上げて踵を返す。 老人の背中はエスカレーターに 飲み込まれるように あっという間に見えなくなった。
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