春色平成児誉美

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「まさか……ね。」 春がエスカレーターの方を 向いたまま、独り言のように言う 「まさか、ですよ。」 呆然とした様子の総司が答えた。 2人の脳内には、ある人物の あまりに有名すぎる名前が 浮かんでは消えている。 “近藤勇”。 新撰組の局長。 だが、昨日土方達と 話した理屈に沿って考えると 近藤が春と同じ時代に 記憶を持ったまま 生まれ変わることはない。 偶然。 その一言で片付けることはできる それでも、春と総司は どこか運命的なものを 感じずにはいられなかった。 「あー!!」 写真に目を落とした総司が 突然大きな声を出す。 「どうしたんですか!?」 写真にはうっすらと影や色が 浮き上がってきていた。 「私のピース写ってないですよ! 肩から上しか撮ってません!」 総司は悔しそうに写真を振る。 「何を言い出すかと思えば……」 総司のマイペース振りに 春は呆れた顔をする。 感慨に浸っていたというのに、 春は一気に現実に引き戻された。 写真をまじまじと見ていた総司が プッと吹き出して笑い始める。 「そう言えば……近藤さんは存外 おっちょこちょいでしたね。」 「局長、だったんでしょうか?」 春がポツリと言った。 「そうかもしれないし そうじゃないかもしれない…… それでも、近藤さんのことを 知っている私達にとっては 意味のある出会いですよ。」 総司はにこっと笑うと ポケットに写真を納めた。 「私達の宝物が またひとつ増えましたね。」
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