春色平成児誉美

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壬生の屯所は、 1年前と同じ佇まいで 春と総司を待っていた。 ちらほらと人が 出入りしているのが見える。 「今回は中に入りましょうか。」 去年はここで土方と再会したので ゆっくり見て回る 暇がなかったのだ。 総司の顔色は幾分か 良くなっている。 何故か胸がドキドキして 春は無言で頷いた。 野口さんを2枚差し出せば あっけなく屯所内に入れる。 春は足の裏の感覚を 確かめるように そうっと足を踏み入れた。 「あの頃の面影はあっても 史跡として見るとやっぱり 様子が少し違いますね。」 そう言いつつも、 総司は目を細めて 屯所内の刀傷を眺めた。 もちろんすべての部屋や場所が 公開されているわけではない。 あの頃のままである方が不自然だ 「でも…………。」 春がごくりと喉を鳴らして 総司のシャツの袖を ぎゅっと握りしめる。 「ん?なんですか?」 総司が柔らかく笑って 春の言葉の先を促した。 「皆が、います。」 春の小さな声が響く。 ザァッと春の風が吹き抜けて、 総司の寝癖をふわふわ揺らした。 総司は少し驚いた顔をしたが 一度目を閉じた後、 ゆっくり屯所内を眺める。
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