春色平成児誉美

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総司にも、見えた。 土方の俳句を盗み見してる自分。 だらしない格好で 縁側に寝転んでいる三人組。 刀の手入れをする斎藤。 向かい側の廊下から見える部屋に 土方の大きな背中。 近藤のおおらかな笑い声が どこかから聞こえる。 話し相手は山南だろうか。 そして過去を見つめる 現在の総司の傍を あどけなさが残る髪の短い少年が 一陣の風のように駆け抜ける。 「春……。」 総司が小さく呼んでも 少年のような少女は振り向かない その小さな体は 当たり前のように 過去の自分の傍に座り込み 土方の俳句を見て微笑んでいた。 「総司。」 耳に馴染んだ愛しい声がして 総司は現実に引き戻される。 「あ……。」 総司は目頭を押さえてほぐし まばたきを繰り返した。 「ね。皆“いた”でしょう?」 春が目を赤くして笑う。 艶やかで長い黒髪が、 春の表情を隠すように揺れた。 今総司の目の前にいるのは まぎれもなく美しい女性だ。 それでも過去は確実にある。 タイムスリップが可能なら いつでもどんなときでも 過去の自分達は必ず 違う時間軸の中に存在している。 永遠に揺るがない “過去”という時間を 総司と春は確かに感じた。
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