春色平成児誉美

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「で、何ですか?その顔……。」 明かりを絞った部屋に 総司独特の透き通った声が ため息を含んで響いた。 うっすらと相手の顔が 見えるくらいの淡い光が すべての風景を甘く滲ませている シャワーも浴びた。 テレビも消した。 カーテンも閉めた。 絶対的に2人だけの空間。 「顔……って?」 ベッドに横たわる春が返事をする 春の顔のすぐ上で 総司は薄く笑った。 「なんか……試合前みたいな。」 「前もそんな話しましたね。 同棲始めた日でしたっけ?」 春もぎこちなく笑い返す。 その声は少し震えていた。 「緊張してる?」 春の気のせいだろうか。 さっきから、総司の敬語が 少しずつ崩れているように思える 「そりゃぁ……してますよ。」 春は頷いた。 総司の両腕は 春の顔の真横にあって…… 春の体のベッドに 触れていない部分は すべて総司に密着している。 ドキドキしない方が無理だ。 春は呼吸の仕方も忘れそうだった 総司がそっと春の頬に手を伸ばす 春はぴくりと体を跳ねさせ、 思わず目を閉じた。 「まいったな…… 私も緊張してるみたいです。」 総司は春の頬、耳、唇、首筋を その形を確かめるように撫でる。 その手が、春の声と同じように 小さく震えていることに気づいて 春はゆっくりと目を開けた。
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