春色平成児誉美

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これはそれから何年後かの話。 「どんな名前にしましょう?」 「あたし、実はちょっと 考えてるのがあるんです。」 「あ、私もですよ。」 「本当ですか? でも、総司のネーミングセンスは ちょっと不安だなぁ……。」 「む。ならせーので お互いが考えた名前を 言ってみましょう。」 「良いですよ?」 春と総司はせーのっと 呼吸をそろえた。 「「誠。」」 同時に目を見開く。 そして笑った。 決まりだ。 新撰組の大切な一文字。 信念の証である“誠”。 これから生まれてくる子供は 誠の旗の下で出会った 春と総司の“誠”だ。 春の白い肌に鳥肌が駆け巡る。 こうなることは 決まっていたんだと 感じずにはいられない。 「これからは誠と三人で 生きていくんですね。」 緩やかに弧を描く 自身のお腹に春は手を置いた。 ここに、自分ではない “個”が入っていることが 不思議でたまらない。 そしてそれだけに 今まで感じたことがないほどの 愛しさを感じる。 「三人と言わず、 四人でも五人でも。 私はいつでも準備万端ですよ。」 総司が春の手に 自分の手を重ねた。 春の手の両側が とても温かくなる。 「気が早すぎ。」 春は総司の大きくて 骨ばった手を軽くつねった。 幸せってこういうことだろうと、 春は最近よく考える。 病室からは、桜の木が見えた。 蕾が柔らかく膨らんで 淡くピンク色に輝いている。 “誠”は桜が満開の頃に 生まれることになりそうだ。 そうだ。 また、春がやって来る。 春と総司が出会った 大切な大切な季節が巡って来る。 春と総司は、同じ気持ちで 固く手を握り合った。 いつか離れるときが来るとしても 永遠などないとしても、 それまではあなたの隣で 同じ時間、同じ時代の暦を――。 【春色平成児誉美】 ―終―
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