あの人との再会

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「起こしてくれて良かったのに」 春はバスに乗りながら まだ寝てしまったことを 気にしていた。 「まぁまぁ。 まだ1日ありますから」 総司がニコニコとそれをなだめる。 春は少し赤くなりながら 無言でコクリと頷いた。 「それにしても… どんな感じがするんでしょうね この時代で屯所に行くのは 私も初めてなので。」 「あたしもです。」 壬生に近づくにつれ 2人は少しだけ 不思議な緊張を覚える。 「私はあの屯所が 1番好きだったかもなぁ… 見え始めた希望に 毎日がキラキラしてたから。」 総司が窓の外を見ながら 思わずといった感じで呟いた。 春は何も言えなくなり 同じく窓の外を眺める。 新撰組は 何度か屯所を移転した。 そこに春はいなかった。 春が新撰組隊士として 過ごしたのは 壬生の屯所での たった2ヶ月ほどだったのだ。 だから総司を含め 新撰組に暗雲が立ち込めていき 時代の波に呑み込まれていく様を 春はまったく見ていない。 史実として知っているだけである 辛さや悲しさを 分かち合ってあげられないことが 春は少し悔しかった。 「あ!降りましょうか。」 目的のバス停についたらしく 総司が何気なく春の手をつかみ 席から立たせる。 2人はバスを降りて 手を繋いだまま 壬生の屯所跡に向かった。
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