過去は過去でも

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静かで濃密な2人だけの時間。 キスをしながら総司の手が 春の肩や首や背中や腰を 壊れ物を扱うように 優しくすべっていく。 そして…その手が ソッと胸に届いたとき、 春はビクッと震えて 目を開けた。 その瞬間 背に感じた畳の感触。 着物のサラサラした感じ。 木造の部屋。 障子を通り抜けて差し込む光。 春の顔にかかった長い黒髪。 幕末で総司に 演技で押し倒されたときの 記憶が頭を駆け巡った。 (違う!!) 春は急に怖くなった。 総司は総司の筈なのに。 あの頃の総司を 嫌でも思い出してしまう。 目の前にいる 平成の総司が急に “総司”ではないような 気がしてしまう。 だってあの時の総司が 一度死んだのは事実だ。 春の頬に涙が流れた。 「総司…」 ごめん。 と、春が言おうとしたとき 総司の動きが止まった。
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