過去は過去でも

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「ほんっとすいません…」 帰りの新幹線の中。 総司はずっと肩を落としていた。 「総司と一緒に 2日間も過ごせたっていうだけで あたしは嬉しかったですよ?」 春はもう何度目かになる なぐさめを口にする。 「それは私もそうですよ! けど、我慢できないとか 散々ごねておきながら 私の方が酔って 寝てしまうなんて… 格好悪すぎる…」 春はがっくりと うなだれる総司を見て プッと吹き出した。 「な!笑い事じゃないでしょう!」 総司が顔を赤くして怒る。 (剣に関する事以外は 案外抜けてて おおらかな人… あたしの大好きな総司だ。) 春は総司の手を握る。 「また一緒に来ましょう?」 ニッコリと春が微笑むと 総司が違う意味で赤くなり コクリと頷いた。 春は総司の手を握りながら 反対の手で ポケットの中の携帯を握りしめる。 昨日一瞬 昔の総司と比べてしまった原因を 春なりに考えてみた。 そして行き着いたのが 携帯のあのムービーだ。 ムービーは消えていない。 特に今まで疑問には 思っていなかったが 死に際の総司が 寂しげに微笑む様子が 残っているのは 変な感じがする。 ムービーが残っていることで 今、目の前にいる総司と このムービーの総司が 別に思えてしまうのではないのか 「春?」 総司に心配げに名前を呼ばれ 春はハッと我に返った。 「具合でも悪いんですか?」 「いいえ! 少しボーッとしてて。」 総司は相変わらず 人の心の機微を 察知することに長けている。 春が不安なとき。 春が寂しいとき。 隠していても いつもすぐ気づかれた。 そして春に安心をくれた。 変わってない。 総司は総司のままだ。 昔の記憶だってある。 (記憶…。) もう1人。記憶を持って 生まれ変わっている人物が 春の頭に浮かんだ。
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