袖擦り合うも

4/12
前へ
/500ページ
次へ
確かにどこかで そう願っている春がいる。 ムービーの総司が消えるのは あのときの総司が 消えてしまうような気がする。 消えて欲しくなかった。 総司は総司だ、 と確信している一方で 今の総司の存在を 春が信じきれてない証拠だ。 土方が言ったことは 痛い程事実だ。 「お前が縛りつけてるから 最期のその気持ちだけ 今の総司の体に入れずに いるんじゃねぇか。」 黙り込んだ春に土方が続ける。 口を開くと涙がこぼれそうで 春は無言で頷くことしかできない 「泣くことじゃねぇ。 それだけあいつの最期の気持ちを お前が大切にしてるんだ。 大切にしてたものが形を失うのは 誰だって嫌だろ。」 春はまたしても必死に頷いた。 「でもそのムービーが消えたとして その気持ちがなくなるか? 目に見える形では無くなっても 総司の中とお前の中。 2人の間にずっとあるだろうよ」 とうとう春の瞳から 涙の雫がポトリと落ちた。 その時、 「流石ですねぇ。土方さん。」 背後から春の大好きな 澄んだ声がした。 「…どういう意味だ?」 土方が座っている側からは その人物の姿が見えるので 土方が仏頂面で返事をする。 「いえ、表現が詩的だなぁ、と」 「総司!?」 春は声をあげ 涙を流したまま振り返った。
/500ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4574人が本棚に入れています
本棚に追加