袖擦り合うも

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「まぁ、全部 想像でしかないからな。 とりあえず難しいことは ゴチャゴチャ考えなくて 良いんじゃないのか?」 土方が春を見ながら言う。 思い詰めるなと 言われている気がした。 「そうですよ。 私達はこの時代で 出会う運命だった。 それで良いじゃないですか。」 総司も続ける。 「なら…。」 長いこと 黙っていた春が口を開いた。 「2人とも、幕末での記憶を 急になくしたり しないでくださいね?」 「忘れる訳ないじゃないですか」 総司が真剣な顔になる。 春は小さく首を横に振ると 一息に話し始めた。 「あたし、総司に再会できたとき どこかでお会いしましたか?って 言われたのが今でも怖いんです。 “生まれ変わり”が怖いのは そのせいもあるんです。」 春は総司の手を勢いよく掴んだ。 総司は春の迫力に 目を丸くしている。 「姿は総司なのに、 あたしを覚えていない。 誰か他に好きな人が できるかもしれない。 あんな思いは、 もうしたくないんです…」 「春…。」 総司はやっと 春の悩みの核心が聞けた気がした 「忘れません。絶対に。」 強く、春の手を握りかえし 包み込んでやる。 「忘れたとしても 何度でも思い出してやらぁ」 土方が横を向きながら言う。 きっと、照れているのだろう。 「約束ですよ??」 春は瞳に涙を沢山ためて 土方と総司を見つめた。 2人は力強く頷いた。
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