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紗愛を何とか叩き起こし、真鈴が向かった先は、街の住民は敬遠しがちな裏路地だった。
すれ違うのは柄の悪そうな男たちや娼婦ばかりで、二人は明らかに浮いていた。
「……ねぇ、ここに何があるの?」
僅かに眉をしかめながら紗愛は尋ねた。
しかし真鈴は「お楽しみ」とだけ答えて、ずいずい先に進んで行ってしまう。
はぐれたらたまったもんじゃない。
仕方なくそれ以上何も聞かず、後を付いて行くしかなかった。
……と、不意に真鈴は立ち止まり、右を向いた。
何だろうと同じ方向を見ると、そこには布を引いて小さな露店を開いている男がいた。
「よ、久しぶり」
そして真鈴はその男に声を掛けた。
男はゆっくり顔を上げると、真鈴の姿を確認して、それから隣に居る紗愛を見やってから、掛けていたゴーグルを外してにっと笑った。
「いよぉ。真鈴じゃねぇかぃ、久しぶりだねぃ」
「元気にしてた?」
「お陰様でねぃ。ところでそっちの嬢ちゃんは?」
「紗愛よ。あたしの友達」
「……どうも」
「どーも、そう恐がらねぇでくだせぇ。
あっしはジナイチ、しがない露店商……は仮の姿、この町一番の情報屋ですよ。」
そう言って、ジナイチはひとつウインクをしてみせた。
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