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驚くべきことは、その下にさらにどん底層とでもいうべき層があったことだ。
彼等は乞食、浮浪者、犯罪者などで、その数は1万1千人にのぼった。
連日空腹を抱え、犬のように食い物を求めてイーストエンドをうろつき、建物の軒先や空き地に眠り、ただ生きているだけという、動物と大差のない人間かつかつの生活をしていた。
そんな層の人々のうちの女性は、多く街頭に立ち、春を売ることになった。
当然の成り行きだろう。
男たちが思いつく仕事と言えば、犬の糞を拾って歩くことぐらいだった。
これをなめし革業者が、金を出して買ってくれた。
革の艶出しに、犬の糞は具合が良いのである。
いずれにしても彼等は、ウエストエンドの金持ちたちが、気紛れに靴磨きにくれてやるチップ分の金額を稼ぐため、1日中身を粉にして働いていた。
19世紀末、ロンドンの東の果ては、こんな状況だった。
上流階級が地位と金に飽かせて悪徳を行えば、下層民は、貧困と絶望から悪事を働いた。
一般庶民も、これらに加担はしないまでも、似たようなものだった。
猟奇的な事件や、サディスティックな憂さ晴らしに異常な関心を寄せた。
「エレファントマン」に見られるような残酷趣味の見せ物の横行、そして1866年に廃止されるまで、各監獄の前で堂々と行われた公開処刑。
老若男女を問わず、大勢の見物人が押すな押すなの人垣を作るそのすぐ前で、首切り役人が斧で死刑囚の首をはねた。
世紀末、文化の爛熟の、行き着く果てである。
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