…―ヤブな名医―…

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― ―― ―コッコッコッ―… 何の飾り気もない石の壁に冷たい石畳の上を歩く靴音が反響し、余計に空虚感が増す廊下をシオは歩いていた。 アルドと一悶着あった後、山爺は今日も訪れているであろう怪我人や病人の診察をしに、自身の独房へと戻った。 シオは他の囚人同様鍛錬場へ行き、日課であるトレーニングを消化していたのだが、【グランティア】が来週に迫った今日、流石に対策を考えなければと頭を捻っていたのだが、良い案は浮かばず、山爺に相談しようと思い、自分たちの牢獄へと足を運んでいた。 このままトレーニングを続けてもたがが一週間で魔物を倒す実力がつくわけもなく、生き残るには頭を使うしかない。 【グランティア】のことで頭を悩ませながら歩いていると、前方から喚いている声が聞こえふと我に帰る。 考え事をしながら歩いていたせいか、気が付けば山爺の牢の近くまで来ていた。 どうやら先程の喚き声は山爺の牢かららしく、小走りで牢へと向かう。 「落ち着け!落ち着くんじゃ!」 「死にたくねぇ!死にたくねぇよぉぉ!先生ぇぇ!!死にたくねぇよぉぉぉ!」 シオが牢を覗くと、今朝看守にいびられていた囚人…確かNo.3512だったか… 彼は山爺の腰にしがみつき必死の形相で泣き崩れていた。 「とにかく落ち着かんか!まだ死ぬと決まったわけじゃ」 「トロールだぞ!?あのトロールだ!俺なんかが勝てるわけねぇ!!犯されて殺されるに決まってる!!」 山爺も必死に宥めるが、男は聞く耳を持たず、ひたすらに自分の運命を嘆く… 「勝たなくたっていい!瀕死だろうが死んでない限り、ワシが治してみせる!生きて戻ることだけ考えるんじゃ!!」 「先生!先生ぇ!先生ぇぇぇぇ!!!」 相も変わらず泣き崩れる男だが、その時、後方から音が聞こえシオはそちらに顔を向けると… ガシャンガシャンと重厚な音を響かせこちらに向かってくる看守の姿があった…。 男もその音に気づいたのか、更にその身を震わせる。 「あっ…あ…あ……っ…」 もはやまともに声が出ない男に、山爺は複雑な表情を浮かべながらそっと肩に手を掛ける… 鎧を着こんだ看守らが牢の前に立ち止まると、男を見下しながらお決まりの文句を口にする。 「囚人No.3512、貴様を栄誉あるシルドの戦士と認め、グランティアへの出場を許可する。」 「Show Timeだ」
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