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僕は再び口を開いた。
「その次に君が確認した花壇。ここは五階建てだから屋上は六階の高さだ。ここまで高いともはやどこに落ちたって助かる見込みは無い。
となれば、どうせなら下に見受ける花壇に落ちようかと思うものだ、と僕は考えた。
コンクリートに囲まれた死姿より花に囲まれた死姿のほうが幾分かましだからね。
だから自殺の邪魔をされた君は、一応確認してみたんだ。
自分が落ちようとした花壇は下にあるのか。しかしそこに若干ずれがあった。あの時、落ちていたらコンクリートだったんだ。そう思った君は、よかった、と呟いた。違うかい?」
僕が尋ねると彼女は幾度か頷き、口を開いた。
「……その通りだわ。でも本当に大した理由じゃないのね」
「言ったろ」
僕は照れくさくなって頭を掻いた。
「だからこそ凄い。あれだけの小さな事から見通すとは驚きです!」
彼女は再び拍手した。
「まぁあれだけで決め付ける勇気が無かったからあんな事を言ったんだけどね」
僕は照れながらそう言った。
「残心ですね。……私にはあの話が、飛び降り自殺なんてつまらない人生の残心は辞めたら? と言っているように聞こえました」
自殺を考えている人だけにそのメッセージが伝わるようにひどく遠回しに説得したのだ。
それが伝われば何とか思い止まらせる事が出来るかもしれないし、伝わらなければただの僕の思い過ごしだ。敗けの無い賭けのようなもの。僕は臆病だからね。
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