夏の一陣

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「でも、一つ間違いがありますよ」   「なんだい?」 「私は別に花に囲まれて死にたかったんじゃなくて、土に落ちたほうが後片付けが簡単だろうなって思ったんです」  彼女は笑ってそう言った。自分が死んだ後の姿を想像して血のついたロータリーは迷惑だと考えたのだろう。花壇なら土を変えるだけだから。    それにしてもなんだか少しずれている。迷惑を掛けてはいけない、とこれから居なくなる世界にまで気を回すのだから。    周りに迷惑を掛けない一番の方法を僕は知っている。      死なないことだ。      だから僕は聞いてみたんだ。 「それでこれからの自殺の御予定は?」  冗談めかした言葉に彼女は笑って答えてくれた。   「なんだか面白い人と出会ったからね……自殺は見送りですかね!」    彼女は小鳥のように綺麗に笑い、くるりと舞った。そんな姿に僕は彼女に見とれてしまったのだ。      これが僕と彼女の出会い。今も鮮明に思い出せる。    明日への希望を見つけ高揚しながらも、チェスのルールを覚えようと心に決めた帰り道を僕は今でも忘れていない。
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