秋の一輪

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「マロングラッセは素晴らしき代物だ」   「ショートケーキは振り返りもせずに王道を行く」   「チーズケーキを愛せないなら処置無しだ」   「チョコレートケーキは私を狂わす」   「ミルフィーユは乙女の永遠の好敵手だ」    全部彼女の言葉である。色紙にでも書いて飾っておきたくなるような格言も飛び出した。ちょっと前まで秋の話ではなかっただろうか?  僕が適当に相槌を打てば、いつまでだって語ってくれる。どこか教室に連れていけば瞬く間に『スイーツ講座』が開かれるだろう。本当に開かれるなら僕は絶対に最前列で聴いてやる。  そんなふうに考えていると、僕の頬が人差し指によってへこむのを感じた。彼女がつっついているのだ。何故、そうも的確なのかと毎度驚かされる。 「聞いてる?」 「聞いてる」 「嘘でしょ?」 「嘘です」  人差し指に親指が加わり僕の頬が引っ張られる。 「痛いよ」 「気のせいよ」  いやいやいやいや。まったくこの人は……。 「貴方はホントに聞き上手だよね」  彼女は手を離すと足をぷらぷらさせながら言った。   「昔ねある人に教えてもらった言葉があったんだ。ホントに小さい頃だった。『相手の話に耳を傾ける』その人はそう言ったんだ。本当はそれには続きがある。それはとても大切な事だっていうニュアンスだったはずなんだけど、どうしても思い出せない」   「それで?」 「凄く格好良い言葉だったんだ。だから僕はまず相手の話に耳を傾けるって決めている」 「そのある人って女の子?」 「確か、そうだった気がする」    彼女は「ふーん」と唸るとこう切り出した。 「そんな君の話を、私は聞きたいな」  彼女にこう言われたら口下手な僕とて語らずにはいられない。あまり面白い話では無いけれど……。   「こんな話はどうだろう?」  
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