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「障害を持った人が一番嫌がる言葉って何だと思いますか?」
唐突に彼女は切り出した。察するに僕を試しているようだ。
「可哀想、かな」
「わお! 大正解です」
彼女が拍手する乾いた音が屋上に響いた。
さっきも言った通り、僕は普通の人よりそこら辺に詳しいのだ。
障害を持った人にとって、物珍しそうにやって来ては「可哀想」と口にする輩は敵なのだ。
本人に悪気は無いため怒るわけにもいかず、ただその同情の混じった言葉を噛みしめて愛想笑いする他無い。
そんなようなことを話すと彼女は大きく賛同した。
「そうなんですよ! 同情なんていらないっつーの! 別にお金も欲しくないけどさっ!」
こんな具合だ。
彼女は口を尖らせ頬を膨らませた。その姿が妙に愛らしくて僕は笑った。
それから僕たちは打ち解け、いろんな話をした。もちろん彼女を白い椅子に座らせてあげて。
僕の親戚で明日退院する変人の話。
自分の恋人が突然道路に飛び出してプロポーズしてきた場合の対処法についての話。
春休みに一人オセロをやる寂しさについての話。
本当にとめどない話ばかりだった。それでも彼女との話は僕に久しぶりの心からの笑顔を与えてくれた。
気付けば僕は彼女に惹かれていたんだ。
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