カーニバル

6/6
前へ
/25ページ
次へ
「浮かない顔だな、鴉」 「…テメーのせいだろ、カラス」   鴉は滴る血と肉を腕で拭いながら、カラスを睨む。拭うそれは先程喰った人間のもの。汚ぇ、と鴉は顔をしかめる。 カラスはニヤリと笑った。   「美味かっただろう」 「そりゃ美味かったけどさ。毎度の事ながら汚ぇんだよ、人間の血って」 「お前も同じ人間──だった、癖に何を言う」 「ハッ。俺を化け物にしたのはテメーじゃねぇか。皮肉なんて通じねぇよ、俺には」 「化け物の道を"選ばせてやった"んじゃないか」 「…あーもう、テメーと話してると終わりがねぇ。言い返し合いが続くだけだ」   鴉は溜め息を吐いてその場に寝転んだ。血と骨と肉がごろごろしていた。 漂う異臭に眉間にシワを寄せながらも、どこか満足そうな表情で空を見上げる。   真っ暗な世界の中で、月と星達が煌めく。 綺麗だな、と思う。   不意にバサッと音がした。カラスが飛び立った音だった。 カラスは鴉の頭上を飛び回り、視界を遮る。 黒い羽が一枚二枚、舞って鴉の顔に降ってくる。   「…何お前、嫌がらせ?今俺星見てんじゃねぇか。邪魔すんなウゼェ死ね」 「私はこの綺麗な空を飛びたかっただけだ。いちいち五月蝿いぞ、鴉」 「………ハァ。なんか…もーいいや。それよか、満腹で…眠い………」   ウトウトしかけた鴉の頭を、カラスが嘴で思いきりつついた。   「ッてめェ!!!何す」 「こんな所で寝るな、表の世界の者にばれる」   カラスは鴉の足元に広がる凄惨な光景を冷めた目で見ながら、「帰るぞ」と言った。 鴉は渋々承諾し、"食卓"を離れた。         翌日、"食卓"は事件の現場としてニュースや新聞で報道されていた。   それでも犯人は見付からないままだろう。 だって捕食者は裏の世界の住人なのだから。 表の世界から裏の世界へはそうそう干渉出来ない。そんな理由があるから。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加