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「浮かない顔だな、鴉」
「…テメーのせいだろ、カラス」
鴉は滴る血と肉を腕で拭いながら、カラスを睨む。拭うそれは先程喰った人間のもの。汚ぇ、と鴉は顔をしかめる。
カラスはニヤリと笑った。
「美味かっただろう」
「そりゃ美味かったけどさ。毎度の事ながら汚ぇんだよ、人間の血って」
「お前も同じ人間──だった、癖に何を言う」
「ハッ。俺を化け物にしたのはテメーじゃねぇか。皮肉なんて通じねぇよ、俺には」
「化け物の道を"選ばせてやった"んじゃないか」
「…あーもう、テメーと話してると終わりがねぇ。言い返し合いが続くだけだ」
鴉は溜め息を吐いてその場に寝転んだ。血と骨と肉がごろごろしていた。
漂う異臭に眉間にシワを寄せながらも、どこか満足そうな表情で空を見上げる。
真っ暗な世界の中で、月と星達が煌めく。
綺麗だな、と思う。
不意にバサッと音がした。カラスが飛び立った音だった。
カラスは鴉の頭上を飛び回り、視界を遮る。
黒い羽が一枚二枚、舞って鴉の顔に降ってくる。
「…何お前、嫌がらせ?今俺星見てんじゃねぇか。邪魔すんなウゼェ死ね」
「私はこの綺麗な空を飛びたかっただけだ。いちいち五月蝿いぞ、鴉」
「………ハァ。なんか…もーいいや。それよか、満腹で…眠い………」
ウトウトしかけた鴉の頭を、カラスが嘴で思いきりつついた。
「ッてめェ!!!何す」
「こんな所で寝るな、表の世界の者にばれる」
カラスは鴉の足元に広がる凄惨な光景を冷めた目で見ながら、「帰るぞ」と言った。
鴉は渋々承諾し、"食卓"を離れた。
翌日、"食卓"は事件の現場としてニュースや新聞で報道されていた。
それでも犯人は見付からないままだろう。
だって捕食者は裏の世界の住人なのだから。
表の世界から裏の世界へはそうそう干渉出来ない。そんな理由があるから。
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