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心地良い。だからこそ、余計に…。
「桜子、桜子…」
「百合子が何を言いたいのか、わかるわ。だから…泣いて、いいから」
桜子の優しい声を聞き、百合子の瞳からとめどなく涙が溢れた。
伝う雫は桜子の纏うドレスに染みていった。
「ごめんなさい、百合子。わたしだけではどうすることもできなかった…」
「いいの、桜子。私を忘れないでいてくれるなら…」
この春、桜子の婚約が決まった。それは政略結婚というもので、桜子自身にはどうすることもできない。当然、百合子にも。
本来ならば喜ばしい事なのだが、百合子と桜子にとってはそうもいかない。
愛し合う二人は、あともう少しで互いに別れを告げなければならない。
だから、百合子は泣く。
「桜子はどうして泣かないの?」
震えた声で百合子が尋ねた。止まらない涙のせいで、呼吸がままならない。
「百合子とは、笑ってお別れしたいもの。泣いたら、離れなくなるわ」
そう言って桜子は、苦しそうに微笑んだ。
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