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「腹減った」
鴉(からす)と云う名の少年が、腹をぐぅ、と鳴らす。
その音を聴いた周囲の人間達の空気が、瞬時に凍りついた。
腹の音は立て続けに鳴る。一回、二回、三回…鳴り続ける。いや、"鳴き"続ける。
少年を除く、この場にいる人間の数だけ、腹は鳴いた。
空腹のせいで苛々しているのか、少年の表情はムッとしている。
少年が鋭く尖った八重歯を覗かせながら何かを言おうとした時。少年の肩に一匹のカラスが舞い降りた。
そしてカラスは嗄(しわが)れた声で鳴いた。いや、喋った。
「鴉、腹が減ったんだろう」
「うるせーよカラス、何でお前が来てんだよ」
「目の前に人間がいるじゃないか。喰えば良いだろう」
「相変わらず人の話聞かねぇよな…」
「喰わないのか、鴉?」
「…俺は……………」
カラスは鋭利な嘴(くちばし)を鴉の喉元に当てた。
「喰え。お前が喰わないと、私が死ぬ。さあ喰え。喰わないと殺す」
カラスの嘴が、鴉の喉元に食い込む。
つぅ、とうっすら皮膚が裂かれ、血が滲む。
鴉の肌に赤色が咲いた。
鴉は唇を強く咬み、瞳を見開いた。
「…んだよ、恐喝じゃねーかよ、コレ…。俺に選択肢なんてねぇんじゃん…。ああもう、自分の運命は呪わねーけどカラスは呪う、絶対ェ呪う」
「呪っているのは私の方だがな」
「うっせぇよ」
鴉は足を踏み出した。一歩ずつ、ゆっくり、人間に近づく。
人間達は額に汗を浮かべ、恐怖に怯え、情けない声で小さな悲鳴をあげている。
「ひ、ひぃ、あ……」
「あーもー、お前ら。恨むなら俺じゃなくてカラスを恨んでくれよ」
鴉は八重歯を剥き出した。野獣のように牙を立て、涎を垂らす。獰猛な瞳を輝かせ、人間達に近づき、そして─────
「そんじゃ、いただきます」
歓喜の咆哮をあげながら、人間達を貪り始めた。
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