プロローグ

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ぞわり。 機械的な音ではない。明らかに人間の声だ。 …人間と言っていいのかは、別だが。 愛里はごくりと生唾を呑み込んだ。喉が異常に渇いている。 そのくせ、冷や汗はじわりとにじみ出た。 真っ暗なせいで、周りが何も見えない。 もしかしたら声の主は、もう隣にいるかもしれない。 姿が見えないだけに、そんな考えが浮かんだが、電気をつけようにも体が動きそうにない。 恐怖。焦燥。 それだけが体を支配して、とりあえずここから逃げ出したかった。 背中につう、と汗が伝う。 ふと、右側がぼうと光った。 それは淡い光で、まるで蛍のような光だった。 蛍と違うのは、安心感を感じないこと。 その鈍い光には、禍禍しささえ感じた。 おなじ『光』だというのに、こうまで陰と陽がはっきり分かれるものなのか。 神々しさとは違う―…毒毒しい、光。 からからからから。 振り向いてはいけない。振り向いたら、終りだ。 そう思う意思とは反対に、目線は光へ。 (怖い。だめだ、見ちゃ―!!!) 愛里の頭がゆっくりと光の方を向いた。 からからからから。 その視線の先には、宙に浮いた女の首があった。 ぽたり、と一滴とろりとした赤いそれが床に落ちて、女はにぃと笑んだ。 からからからから! 次の笑い声が響いたとき、愛里は意識を失った。
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