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「今はまだ、その時ではありませんよ」
荒れ果てた戦場には似合うぬ、鈴を鳴らしたような声。それは確かに自分の愛する者のもので。聞くだけで安らぎ、上った血もスッと引いていくのが判る。
声が聞こえた方に向くと、そこにはやはり愛する人がいて。
「デレク様。お怒りになるお気持ちも判りますが、今はその時ではありません。剣をお収め下さい」
従い、剣を下げる。彼女はそれを確認すると睨むように赤い男をみる。
「エドワード・コール・アルメニア。貴方を政犯とし、議会にかけます。貴方の処遇はその時に決まるでしょう。それまで、精々死なないでください」
憎悪の篭った目で彼女を睨む赤い男。それを意に介さず、私に向き直った彼女は少し悲しげな目をしていて。私には只々、抱きしめることしかできなくて。
「王よ。あなたは自分がファラウスを殺したとおっしゃった。だが、それは違う。王よ。ファラウスを殺したのは世だ。そこを勘違いするでない」
これは自分に対する言い訳。判っていても言わずにはいられない。言わなくては、親友が報われない気がするから。
「余ではなく、世と申すか。甘いなデレク。いつか、その甘さが貴様に不様な死を与えるだろうよ」
明らかな皮肉。怒りに燃え、もう一度、降り懸かるデレクを期待したよ王だったが、実際に見たものは自嘲気味に笑うデレクの姿。
「甘い……か。甘さはあの時に捨てたと思っていたのだがな。やはり、私には甘さは捨てきれないようだ」
外の雨はいつの間にか上がっていた。雲の隙間からは透き通るような青空が見える。
アルよ、見えるか。お前の好きな青空が広がり始めているよ。
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