第一章

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始め、空は目の前の少年をあまり気にしていなかった。 少年は自分と同い年位で、背が高く全身黒づくめの服装、髪も黒くワックスなどでもいじっていない様だった。 その時はまだ、この神のゲームをあまりよく理解していなかったからかもしれない。 少年が空に語りかける。 一番聞きたくない、最悪の言葉を。 「よう……能力者さん……いや、〈Ⅹ・ヒューマン〉!」 空はその言葉を聞いて、完全に硬直する。 体中からは、嫌な汗が吹き出す。 「人違い、では?」 空は出来る限り平静を装おい、聞き返す。 しかし、それは無意味だった。 「とぼけるな。ならその額と両手の“Ⅹ”はどう説明する気だ?」 その声は、酷く冷淡であった。 空は直感で悟る。 この男はまずいと。 気がつくと、空は逃げていた。 全力で、逃げていた。 だが 「無駄だ……まさか能力をまだ使えてないとはな……ま、それを期待してたが」 少年は右手の、チェーンに大鎌が付いた形のブレスレットを前に突き出す。 「引き裂いて殺るぜ」 その言葉に答える様にブレスレットが輝く。 すると、少年の手には刃渡り六十cm、全長二メートルはありそうな漆黒の大鎌が現れた。 少年は大鎌を構える。 空はそれを見てさらに加速する。 だが、加速した瞬間。 何かが、背中に突き刺さった。 その拍子に空は倒れ込む。 強烈な痛みと共に、傷口から綺麗な程に赤い血が吹き出る―― 鮮明な血が、辺りを覆いだした―― 空が虚ろな目で背中を見ると、大鎌が深々と刺さっている。 その少年の声が聞こえる。 「弱いな……冥土のついでに、お前を殺した奴の名前くらい教えといてやるか、《片桐 夕》だ、じゃあな……哀れな〈Ⅹ・ヒューマン〉」 少年は去って行く。 血だらけの空を置いて……。
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