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「お、おい嶺王」
「おいやめとけって。暴力事件で退部、ましてや退学なんて、つまんねぇだろ」
嶺王は、舌打ちをしてから、手を離した。
「ま、俺は試合も見たことだし、帰るわ。だけど、君、榎本だっけ?一つ言っておくわ」
耀は、潤一に近づいて、言った。
「俺はあんな逃げてばっかの投球、俺は心底嫌いなんだよ。やめちまえ」
「っ・・・・・!逃げてない」
咄嗟に出てきた言葉がそれだった。
「っはっははは。変化球ばっかの投球。それで逃げてないと?」
「・・・・・・」
言葉が出てこなかった。
逃げる、逃げないで投げているなんて、考えたことなかった。
「ま、言いたいことはそれだけだ。精々新旺に勝って、甲子園まで来てくれよ」
嶺王は、もう何も言わなかった。
ただ黙っていた。
耀は既に歩き出していた。
「おい!」
背中に向かって、潤一は声をかけた。
「あぁ?」
「俺は、逃げてない。瀧澤先輩みたいに速球は投げられない。多分、一生かけても無理だ。
だけど、変化球は俺の武器、決め球だ。それを「逃げ」とは言わせない」
それが潤一の精一杯の言葉で、思いだった。
隣にいた嶺王も感じた。
(こいつは・・・・・自分を卑下するけど、スクリューに関しては馬鹿にされたくないんだ・・・)
「・・・・・ま、見せてくれよ。甲子園で」
言い残して、耀は行ってしまった。
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