マルヴェリータは、何故か黙っていた。 あの二人の遣いが現れた時から、どうも嫌な感じがしたのである。
その時、ポリアより席を二つ離した壁際にて。 睡魔に襲われていたシスティアナが、カウンターに凭れ込み。 つまみ皿を揺らして、ワイングラスを零しそうに成った。
「わ゛っ、シっ、システィっ」
驚いたポリアだが、どうやら‘寝落ち’た様子である。 ク~ピ~と、寝息を立てていたシスティアナ。
もう夜は遅いと思い。 ポリア達は、取った部屋に帰る事にした。
だが、その夜。 雨は、激しく降った時も有ったが。
遂にKは、宿へ戻って来なかった…。
そして、次の日の朝・・。 いや、昼が近い頃に起きたポリア達。
珍しく血色の良いマルヴェリータやシスティアナと、先に起きて待っていたイルガを含め。 お腹を満たそうと、一階の食堂へと降りて来れば…。
‘愛想’と云うモノが、微塵も無い宿の主人がやって来て。
「オイ。 昨日に消えた包帯男の荷物は、一体どうするんだ? 背負いのバック一つだがよ。 今日中には、取りに来て欲しいんだがな」
その主人は、40過ぎの太った男だが。 どうも目つきはイヤミったらしく、言動までいい響きに聞こえない。
然し、この主人とポリアは、前に一度この宿を利用した時に、一悶着を起こしていた。
この主人は、云わば代理の主人。 雇われの身なのに、ポリアを初めて見た時に、一目惚れしたのだろう。
“今夜、一晩中仲良くするなら、宿代を割り引く”
と、エラい熱量で絡まれた。
身体を売るポリアでも無いから、そこは潔癖の性質から怒声を張り上げての大ゲンカ。
その喧嘩は、この宿を含めた3つの質の違う宿を束ねる商人が収めた。
だが、その経験が在ってか。 一度、酷い口論をしたからと、向こうも随分な強気の言い方をする。
この宿の仮主人の起こす不手際は、それだけに留まらないが。 首をすげ替えないのには、何等かの理由が有るのだろう。
然し、起き抜けで言われたものだから、ポリアもムスっとしてしまった。
「あ、そう。 食事が終わったら、引き払う時に持って行くわよっ」
ぶっきら棒に、嫌悪感を混ぜて言ったポリア。
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