その麗人が歩く道なりには、大小様々な店が建ち並ぶ。 その店の一つに、薬草の調合から薬の販売までをする所が在るのだが。 店の主人らしき初老の男が、手拭いを頭にして汚れた仕事着姿ながらに、歩く麗人を見掛けては、ボ~っと見とれてしまい。
「カァちゃんよ。 あれは・・、何処ぞのお姫様け?」
と、何の気なしに一緒に働く妻に言うのだが。
麗人に見とれた主人は、秤に掛けた受け皿に、零れ落ちるまで薬匙で粉末を乗せてしまう。
重たい壺を店の中へと運んだ、大柄な女性の奥さんは、
「アンタ、何だって?」
と、店先に来るなり、その光景を目撃。
「チョットっ、アンタっ! 何を勿体無いことしてるんだいっ!!!!!」
感情任せに怒声を張り上げる。
ハッとして、自分のしでかした事に気付く主人。
だが、その麗人を初めて見た男性なら、そう成っても無理はなかろう。 その麗人は、顔が美しいだけでは無く、格好もまたそこらのお嬢様とは違っていたからだ。
その格好とは、百合の絵の装飾が美しい、白銀製の上半身鎧を着て。 左の腰には、真紅の柄をした長剣を佩き。 背に回した白いマントが、潮風に靡いていて。 足には、深紅の鉄靴を履く。 その出で立ちを吟遊詩人などが見たならば、
“古の神話を描いた絵物語に出て来る、麗しい戦いの女神が、そのまま人に成った様な…”
こんな大仰な例えでもしそうだが。 確かに、ちょっと不思議な、完成された美しさを持って居る様に見えた。
然し、こんな昼前の街中に、そんな御大層な神が歩く訳も無い。 完全なる武装した姿で在るから、彼女一人を見ても。
‘冒険者だな’
と、誰しもが思うだろう。
処が。 道ですれ違う人やら、店先に居る人の目を惹く麗人だが。
「あ゛~~~、な・ん・でっ! いきなり呼び出しされんのよっ」
苛立つ様子からして、何故か不機嫌そうな麗人の彼女。
そして、そんな彼女の隣を行く者は、
「ポリア様、そう苛立ちませぬ様に。 館の主人に呼ばれたのですから、恐らくは悪い話では在りますまい」
と、苛立つ麗人を努めて宥めている。
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