第一部:その男、伝説に消えた者

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“ポリア”と、麗人を呼んだ横に居る人物は、背の低い中年男である。 横を歩く美女より、頭一つ以上は低い体で。 日焼けか、元々より色黒なのか解らない肌は、厚手の革をなめした様に引き締まり。 厚い胸板、太い腕、どっしりと引き締まった腰部からしても、屈強な筋肉の鎧の様な体をしていると、見て立ち所に解るだろう。 その見た目は、船着場にて重労働に従事する40過ぎた船乗りの様な、厳しい苦労人とも、訝しいげな渋い顔とも、感じられる人物だった。 だが。 ポリアと云う麗人に対しては、まるで臣下の様に言葉を選んで接している。 恐らく、この彼も十中八九は、冒険者なのだろう。 少し低めの身体には、ちょっと似遣わない戟槍を持つ。 ざっと見て、男の身長の二倍は長さが有ろうか、と云う武器で。 一方の身体には、肩、首周り、背中や胴と、守るべき場所に金属のパーツが当てがわれる。 俗称は、〔軽鎧〕と呼ばれるプロテクターを着て。 腕や足には、金属補強された丈に合う革の籠手、具足を身に付けていた。 この二人、見てからに‘美女と野獣’の様で。 特に、その美しさが飛び抜けている麗人は、他の冒険者や通行人に見られるのだが。 何故か、先程から苛立っている麗人のポリアは、まだ腹の虫が収まらないと。 「解ってるわっ。 でも、イルガ。 昨日、あ~んだけコケにして於いてよ。 んで、今日いきなり‘来い’って、言われてもさぁ…」 此処で二人は、往来を行過ぎる人や馬車を避けてから。 麗人のポリアより、‘イルガ’と呼ばれた、脇を行く槍を持った中年男が。 「確かに、仰るポリア様の気持ちも解りますが…。 然し、冒険者への仕事の斡旋は、館の主人の気持ち一つです。 呼ばれたら、何はともあれ行きませぬと…」 こうポリアに言い聞かせる様に、姿勢を低くして言った。 イルガの言わんとする事を、ポリアも頭では解っているのだが。 「解ってる、解ってンのよっ。 あ゛~、もうっ。 こんな事なら、宿に残った二人も連れてくれば良かったわ」 と、言い捨てたポリア。
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