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「なっ! 何逃げてっ……って、あれ……?」
突如、美桜の顔色が一変し、口振りが先ほどの勢いとは逆に弱々しくなってゆく。
司郎もすぐさまその異変に気づいた。
美桜の背中に、冷たく尖ったものが押し当てられていたのだ。
そう、ナイフだ。
さきほど司郎に弾き飛ばされたのを、どさくさに紛れてジャージ男が拾いなおしたのだろう。
「ええっと、さっきのはなし! って……ダメ?」
美桜は引きつった笑みを浮かべなががら、両手の人差し指を掛け合わせて小さくバツを作る。
だがジャージ男は静かにゆっくりと首を横に二回振って見せた、そして重苦しい口を開く。
「もういい……お前なんかと一緒に逝くもんか! その変わり、お前もミカン男も一緒に殺してやる!!」
ジャージ男の目には怒りを通り越し、もはや明確な殺意の光が宿っていた。
こうなるともう何を言っても無駄だ。
背中越しに男からの殺意が、司郎にまでひしひしと伝わってくる。
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