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このままではまずい、最悪の結果になってしまう前に止めなければ、咄嗟にそう思い司郎は瞬時に身構えたまま前傾姿勢の状態でジャージ男にと飛び掛かろうとした。
だが、
「えっ……?」
不意に漏れた司郎の声、自分の足に何やら違和感を感じたのか、司郎はふと足元に視線を移した。
飛び掛かろうとした足が、地に着いたまま小刻みに揺れていた。
爪先から膝にかけて細かく震動している。
ハッとして司郎は手元にも視線を移した、いつの間にか両手も、足と同じようにブルブルと震えていた。
「はははっ! 何だミカン男、お前もしかしてビビってんのか? はっ! カッコつけてヒーロー気取ってんじゃねえよこのチキン野郎!!」
男の激しい罵声が司郎に浴びせられた。
しかしそれでも震えは収まらない。
怒りまかせに握った拳に自分の爪が食い込んでゆく。
(こんな、こんな時にまで僕は僕自信を裏切るのか……女の子一人も守れないなんて、僕は……)
自分の意志とは反対に震え続ける体。
そんな自分に、司郎は唇を噛み締め怒りを露わにする。
こんな事はめったにない。
「美桜ちゃんも見てみなよ、こいつ震えてるんだよ? あはははは!」
ジャージ男の薄気味悪い笑い声、だが次の瞬間、その声がピタリと止んだ。
「あんたなんかに……」
うつむいたままボソリ、と小さく呟く声、美桜だ。
ジャージ男がすかさず美桜の側に耳を傾ける。
「な、なんだ? 何て言った?」
ジャージ男が美桜に聞き返した、けれどその質問に美桜は応えない。
代わりに美桜は閉じた口を開き、大きく息を吸い始めた。
胸が一瞬だけ膨らみ、やがて引いていく、深呼吸だ。
そして一連の動きが止んだと同じに
「あんたなんかに、私は負けない」
顔を上げ揺らぎのない声で美桜はハッキリと言った。
しかも口許を弛めて、そう、笑っていたのだ。
だがそれも口許だけ。
他は先ほどと変わらない。
全身は震え、目には涙を溜めている。
白かった肌は青ざめたままだ。
強がりにしかみえない。
けれどただの強がりではない、恐怖に屈しない美桜の渾身の強がりだ。
心だけは屈しないという美桜が胸の内から振り絞った最大級の勇気と言っていい。
(なんで、なんでこの人はこんな時に笑えるの……)
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