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すると美桜がほんのりと頬を染めながら、照れた様子で、
「ね、ねえ、一つ聞いてもいいかしら?」
と、聞いてきた。
「は、はい、何ですか?」
首を傾げる司郎。
「何で、何で私の事助けてくれたの?」
美桜はどうしても知りたかったようだ。
普通ならまずあの状況で飛び込んでくる人間はそうはいない。
少なくとも美桜の周りの人間には、
「えっ? 助けるのに理由がいるんですか?」
と、逆に何でそんな事をわざわざ聞くのか? といった様子で聞き返す司郎。
そう、司郎にとってはごく当たり前の事をしたまで、そうやって育ててもらってきたのだから。
だが美桜はなおも納得いかないといった様子。
「だ、だって、もし仮にあいつに殺されたりしたら、後悔しても遅いのよ!?」
そう言いながら気絶した男を指差す美桜、自然と声が荒くなっていた。
しかし司郎は相変わらず穏やかな優しい声で、
「あなたを助けられなかったら、多分僕は死ぬまで後悔すると思います」
美桜の心に衝撃の様なものが走った。
それはまるで、巨大な氷塊が粉々に砕け散るような感覚に似ているのかもしれない。
これから続く長い人生の中で、一体どれだけの人が、こんな事を言ってくれるのだろうか? いや、もしかしたらいないかもしれない。
そう思うだけで、美桜の胸は一杯になっていた。
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