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木曜日の曽根川ひかるはご機嫌だ。
もっとも苦手とする文系の授業が一つも無いうえ、好きな体育が四時限目にあるからだ。
空腹手前のちょうど良いところで体を動かすのが好き。腹が減りすぎてなく、ちょうど良い感じに消化された朝食のエネルギーを、全部体育の時間で消費する。冬まっただ中の最近では専ら体育館での器械体操が中心で、特に跳び箱がお気に入り。
そんな、体育座りをしてワクワクしながら飛ぶ順番を待っていると、担当の先生に、「次、曽根川」と、名前を呼ばれた。
「飛べ」
短く行って、ピッと短く笛を鳴らす。今年の春が教師歴一年目らしい角刈りに四角い顔の、上下とも青いジャージを着た新任のこの先生は、跳び箱を指さす。
ひかるは立ち上がり、スタンバイする。
十二段。
スポーツ派の男子は軽々と飛んでのけるが、そうでない生徒たちには、すこしハードルが高いようで飛べる数は半々くらいだ。そんな段を飛べるとは思ってないらしく、すでに持っているノートに目を落としている。
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