prologue

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今朝方、この美術館に一本の予告状が届いた。 「貴館の蔵されている中世の名画を頂戴しに参ります」 といったものだ。 これを見た美術館のオーナーは激怒した。 なにせその絵は先日ある資産家から莫大な金額で買い取った品だったのである。 オーナーは反対する周囲を押し切り、警備の強化を指示、「盗めるものなら盗んでみろ」という姿勢を崩さない構えだった。 ゆえに、展示品を一旦別の倉庫などに移す、という手も採らなかった。 しかし周囲はより万全を期すべきと考えたようだ。 絵は別の場所に移されることになったらしい。 恐らくは、小心者とおぼしき館長の指示だろう。 「お互い大変ですね」 ディーンが同情を込めて言うと、 「はは、まぁ仕事ですからね」 と、男は笑った。 2人は別れを告げ、別々の方向に歩き出す。 1人は懐中電灯を持ち、1人は大きな絵を持って。 もともと絵があった場所には小さなカードが貼り付けられていた。 ディーンは、明日の見学者に対する告知が書かれているのだろう、と思った。 それは、間違いではなかった。
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