口付

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「知ってるか?」 昼休み、いつものようにみんなでご飯を食べていたときだった。 トオルが席につきながら話し出した。 「タカギ、クビになったらしいぜ!」 講義が突然休講になっていたから、なんでかと不思議に思っていたときだった。 どういう経緯かはわからないけど誰かがチクったらしい、トオルが言った。 「あんな奴だもん、今まで普通に教壇立ってたのが不思議なくらいだよね!」 サキがフミエの腕を掴んで同意を求める。 フミエが苦笑いしながら頷いた。 「でもさ、なんで今さら??誰がチクったんだろうね?」 「それがな、証拠になるものが学長宛に届いたらしい。」 「証拠??なんだろうね??」 僕はそれを興味のない顔をして聞いていた。 その証拠がなんであるか、そして誰が送ったものか知っていたから。 そんな僕の目の前に座っていたユリが持っていたスプーンを落とした。 どうした?とみんながユリを見つめる。 ユリは、手が滑ったと恥ずかしそうに笑ってみせた。 「何はともあれタカギいなくなってよかったね!」 サキがキャッキャと騒ぐ。 「何そんなに騒いでんだ、情報屋。」 振り返るとアキラがいた。サキが顔を赤くして、大人しくなる。 「ここ空いてるか?」 「うん。」 彼女が僕の隣に腰をかけた。 「で、何騒いでんだよ。」 ニヤニヤしながらサキを見てアキラが聞く。 こういうとき、彼女は本気で楽しそうに見える。 サキは、いや……あの……と彼女と目を合わせないようにしていた。 「タカギがクビになったんですよ!!」 トオルが身を乗り出して、彼女の顔を覗き込む。 ちょうどトオルと彼女の間に僕がいるから、僕が邪魔で彼女が見えないんだろう。 トオルに向き直り、彼女が色っぽい顔で笑う。 「へぇ~。で、タカギって誰?」 本当に誰だか知らないように彼女はトオルに聞く。 その微笑みは相変わらず妖艶で、トオルは顔をニヤけさせながら説明を始めた。 彼女はそれを無視して、フミエを見るとニコリと優しく微笑んだ。
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