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『ハァ!ハァ!ハァ!ハァ!お妙!咲!』
団は村に戻ってきた。いつもと風景は変わらない。団は家にまっしぐらに向かった。
『お妙!咲!………帰ってきたぞ!…帰ってきた………悪ふざけはよせ、分かっとるぞ?わしを驚かせようと………………なぜ何も言わん…妙、咲……………わぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!かやせ!家族をかやせぇ!!糞侍めがぁ!!うわぁぁぁぁぁぁぁ!!』
この日、女房を拐われた夫は数多く…女は老婆のみとなった。
一ノ瀬団之助、この村で団と呼ばれる男は瞬間的に生きる価値を失った。
『団よ…妙や咲は気の毒じゃ…。だが死んだ訳ではない…』
『……侍に拐われたんなら…女は慰めに使うに決まっとる…。妙は弄ばれるんじゃ…。咲も成長すれば…』
『…団よ…もう仕方ない事じゃ…。あの侍もどこのもんか分からん…。取り返す事は出来んだろう…』
『…………………』
『何をひがんどる!!わしかて女房と娘を盗られたんじゃ!!』
『………分かっとるわい!言われんでも!!』
『おい団!どこ行くんじゃ!!』
団は涙で前が見えないというのに全力で走る。団は何故か農道に誘われるように走る。そこには昼間と変わらない様子の赤ん坊が、籠の中で夜空を仰いでいた…。
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